幹細胞と化粧品
幹細胞配合化粧品への誤解とその特徴
近年、「幹細胞配合化粧品」という言葉を目にする機会が増えていますが、この成分については、いくつか誤解が存在します。まずは、基本的なポイントを整理してみましょう。
1.配合されているのは「幹細胞」本体ではない
幹細胞自体ではなく、培養時に得られる「幹細胞培養上清液」が主に使用されています。この上清液には、肌のターンオーバーを整えるための重要な「信号物質(成長因子)」が含まれています。
2.肌のターンオーバーを整える鍵は「信号物質」
幹細胞そのものではなく、そこから抽出された信号物質が、ターンオーバーを促進する働きを持っています。これにより、肌の再生や健康的な状態の維持が期待されます。
※詳細は、こちらのコラムをご確認ください。
・肌のターンオーバーと老化について(こちら)
・幹細胞と美容医療の世界(こちら)
※なお、以降本コラムでも「幹細胞培養上清液」を「幹細胞」と記載させていただいている箇所があります。
「幹細胞の由来」による化粧品配合の特徴と違い
幹細胞の由来には、「植物由来幹細胞」「ヒト由来幹細胞」「動物由来幹細胞」の3種類がありました。(詳細はこちら)
この由来成分について、化粧品配合の観点から見て行こうと思います。
1.植物由来幹細胞の特徴
植物由来の幹細胞は、種子の胚、根の先端、茎の付け根などから抽出されます。ただし、植物と動物(ヒトを含む)ではそもそも体の仕組みが異なるため、植物にも外部刺激から身を守る機能はあるものの、動物やヒトの「皮膚」とは性質が異なります。
この違いにより、植物由来幹細胞と動物・ヒト由来幹細胞は、化粧品に配合される目的も異なると言えます。
植物由来幹細胞:肌の潤いやハリ・ツヤを保つことを目的とする。
ヒト・動物由来幹細胞:皮膚のターンオーバーの乱れを整えることに重点を置く。
植物由来幹細胞からは抗酸化成分や保湿成分が得られ、動物・ヒト由来幹細胞と比較して低コストで化粧品に配合できるのが特徴です。このため、ターンオーバーの周期が整っている20代の方や、手軽な価格でスキンケアを行いたい方に適しています。
2.ヒト・動物由来幹細胞の特徴
ヒト・動物由来の幹細胞には、主に、胚性幹細胞と組織幹細胞の2種類があります。(この2種類の違いについてはこちら)(1)胚性幹細胞
ヒトの胚性幹細胞は、精子と卵子が結合してできた受精卵をもとに培養された細胞です。
現在、この幹細胞の利用については、以下の課題を抱えています。
①拒絶反応のリスク
ヒトの胚性幹細胞は、他人の受精卵から作られた細胞の場合、移植した場合は、拒絶反応が生じるという問題があります。
②倫理的な懸念と法整備の必要性
ヒト由来の幹細胞培養の際、元となる胚は不妊治療で不要になった「余剰胚」から提供者に同意のもとで用いられていますが、生命の源である胚を壊して作るという観点に、倫理上の違和感を持つ人も少なくなく、法整備含めて体制の整備が必要と考えられています。
(2)組織幹細胞
ヒト・動物由来の組織幹細胞には、色々な種類がありますが、大きく分けると、以下の3種類があります。
①造血幹細胞
骨髄(骨の中)に存在し、血中に含まれる細胞のもととなる幹細胞です。 赤血球と血小板、すべての免疫細胞に分化します。
②間葉系幹細胞(MSC)
骨髄や脂肪組織、歯髄(歯の中)、胎盤などの幅広い組織に存在し、脂肪細胞や血管の細胞、神経細胞、筋細胞、軟骨細胞、皮膚細胞などに分化します。
③神経幹細胞(NSC)
脳内に存在し、脳(神経組織)を構成する細胞のもととなる幹細胞です。神経細胞のほか、脳の構造を支えるアストロサイトや、神経伝達を速めるオリゴデンドロサイトに分化します。
医療の世界で肌再生治療に用いられたり、化粧品に配合されたりする幹細胞で多いのは、「②の間葉系幹細胞(MSC)」です。
中でも近年は、脂肪幹細胞を使用した商品やサービスが増えている傾向にありますが、こちらは「組織幹細胞」の一つです。
組織幹細胞を化粧品に配合した場合、幹細胞培養上清液で抽出され、化粧品に配合している信号の成分、つまりは成長因子の種類や量が、鍵を握っているといえます。
なぜならば、組織幹細胞は分化の方向性が決まっている幹細胞のため、抽出できる信号物質の種類や量に特徴があるからです。
肌のターンオーバーに対するアプローチをしている化粧品を選択したい方は、実際にどのような成長因子がどの程度含まれているのかということを知ることが、ご自身の肌に合う化粧品を選択するヒントになると思います。
さいごに
幹細胞配合化粧品は、幹細胞そのものではなく、その培養過程で得られる「信号物質(成長因子)」が重要な鍵を握ります。
植物由来、ヒト由来、動物由来の幹細胞にはそれぞれ異なる特徴があり、配合の目的や得られる効果も異なります。
幹細胞配合化粧品を選ぶ際には、どのような特徴を持つ幹細胞培養上清液が、どのくらい配合されているのか、そのポイントをしっかり押さえることが重要です。