「ヒト幹細胞化粧品」「植物幹細胞コスメ」など、“幹細胞”という言葉を使った化粧品を目にする機会が増えています。

幹細胞化粧品とは、一般に、幹細胞そのものではなく、細胞を培養した際に得られる培養上清液・培養順化培養液や、植物細胞培養エキスなどの「幹細胞・細胞培養技術に関連する原料」を配合した化粧品を指します。

そのため、「ヒト幹細胞」「植物幹細胞」「動物幹細胞」と書かれていても、実際に化粧品へ配合されている原料の成り立ちは同じではありません。

さらにovacoでは、単に「何由来か」だけではなく、その培養過程で、どのような“信号”が、どのくらい、どのようなバランスで生み出されているのかを重要な視点として捉えています。

この記事では、幹細胞化粧品とは何か、培養上清液との違い、ヒト・植物・動物由来の特徴、そして「信号の質と量」という考え方を含め、商品を見るときのポイントを解説します。

幹細胞化粧品とは?

「幹細胞化粧品」は、ひとつの決まった成分だけを指す名称ではありません。

一般には、幹細胞や細胞培養技術に関連する原料を配合した化粧品に対して使われています。

  • ヒトなどの細胞を培養した際に得られる培養上清液・培養順化培養液
  • 植物の培養細胞から得られる植物細胞培養エキス
  • 動物由来細胞の培養過程から得られる培養順化培養液など

つまり、「幹細胞化粧品」と書かれているだけでは、その製品に何が入っているのかまではわかりません。

大切なのは「幹細胞」という言葉だけを見るのではなく、実際にどのような原料が配合されているのかを見ることです。

化粧品に「幹細胞そのもの」が入っているわけではない

ここは、幹細胞化粧品について特に誤解されやすいポイントです。

「ヒト幹細胞」「植物幹細胞」などと表現されていても、通常の化粧品に、生きた幹細胞そのものを入れて肌へ塗っているという意味ではありません。

例えばヒト由来では、細胞を培養した際に得られる培養上清液や培養順化培養液(conditioned medium)などが原料として利用されることがあります。

植物由来では、植物の培養細胞から得られる植物細胞培養エキスなどが利用されています。

つまり、「幹細胞化粧品=幹細胞そのものが肌の中で働く化粧品」ではありません。

そもそも幹細胞とは何か、自己複製能・分化能・多能性などについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

幹細胞とは?自己複製・分化の仕組みとovacoが研究する理由を見る

「幹細胞」「培養液」「培養上清液」は何が違う?

幹細胞化粧品について調べると、「幹細胞」「培養液」「培養上清液」「培養順化培養液」など、よく似た言葉が出てきます。

これらは同じものではありません。

幹細胞

幹細胞とは、自分と同じ性質を持つ細胞を生み出す「自己複製能」と、異なる種類の細胞へ変化する「分化能」を持つ細胞です。

培養液

培養液とは、細胞を体外で培養するための液体で、細胞が生育するために必要な栄養成分などを含みます。

培養上清液・培養順化培養液

細胞を培養すると、細胞は培養環境の中へさまざまな物質を分泌します。

培養後の液体から細胞そのものなどを取り除いたものが、一般に培養上清液や培養順化培養液などと呼ばれます。

そこには、細胞や培養条件によって、タンパク質、サイトカイン、成長因子などの分泌物が含まれることがあります。

重要なのは、幹細胞そのものと、幹細胞を培養した結果として得られる培養上清液・培養順化培養液は別のものだということです。

お味噌汁でイメージすると

少しイメージしやすくするために、出汁をとる工程に例えてみます。

幹細胞=出汁をとるための昆布やカツオ
培養液=昆布やカツオを入れる前の水
培養上清液=昆布やカツオからさまざまなものが溶け出したあとの液体

もちろん、実際の細胞培養と出汁をとる仕組みは異なりますが、「細胞そのもの」と「細胞を培養した結果として得られる液体」は別物だと理解するための例えです。

幹細胞と培養液・培養上清液の違いを説明するイメージ

幹細胞化粧品で重要なのは「どんな信号が、どのくらいあるか」

ovacoでは、幹細胞関連原料を考えるときに、単に「ヒト由来」「動物由来」といった由来だけではなく、その培養過程で、どのような“信号”が、どのくらい生み出されているのかを見ることを大切にしています。

細胞は培養中に、成長因子、サイトカイン、タンパク質、細胞外小胞など、さまざまな物質を周囲へ分泌します。

ovacoでは、こうした細胞同士の情報伝達に関わる物質を、わかりやすく「信号」という言葉で捉えています。

重要なのは、信号が「入っているか・入っていないか」だけではないということです。

どのような種類の信号が、どのくらいの量・濃度で、どのような組み合わせやバランスで存在しているのか。

細胞は、受け取る信号によって、その振る舞いが調節されています。

そのためovacoでは、「成長因子が入っている」「幹細胞由来である」という言葉だけではなく、どの細胞を使い、どのような条件で培養し、どのような信号を含む原料が得られているのかまで見ることを大切にしています。

「信号の量が多いほどよい」という意味ではない

一方で、「成長因子の種類が多いほどよい」「濃度が高いほどよい」という単純な話ではありません。

重要なのは、単純な「多い・少ない」ではなく、どのような信号が、どのくらい、どのような組み合わせやバランスで存在しているのかということです。

また、培養上清液は、細胞の種類、組織由来、培養条件、培養期間、回収方法、ろ過・精製などの工程によっても、その中に含まれる分泌物の構成が変わり得ます。

これが、ovacoが大切にしてきた「信号の質と量」という考え方です。

幹細胞化粧品に使われる原料にはどんな種類がある?

幹細胞化粧品では、「ヒト由来」「植物由来」「動物由来」などの表現が使われています。

ただし、この3つを単純に「どれが一番優れているか」で比較することはできません。

由来だけでなく、実際に何を化粧品原料として利用しているのかが異なるためです。

1.ヒト由来

ヒト由来の幹細胞関連原料として知られているのが、ヒトの細胞を培養した際に得られる培養上清液や培養順化培養液です。

例えば、脂肪組織、骨髄、臍帯などに由来する間葉系幹細胞を培養し、その培養過程で得られた培養液について研究が行われています。

ただし、「ヒト由来だからすべて同じ」「ヒト由来だから必ず高機能」というわけではありません。

ヒト由来では「間葉系幹細胞(MSC)」がよく登場する

ヒト由来の幹細胞培養上清液について調べると、「間葉系幹細胞(MSC)」という言葉を目にすることがあります。

間葉系幹細胞は、脂肪組織、骨髄、臍帯などから得られる細胞で、培養上清液やsecretomeに関する研究でも多く用いられています。

例えば「脂肪由来幹細胞培養上清液」は、脂肪組織由来の間葉系幹細胞を培養した際に得られる培養液を利用したものです。

ここでも重要なのは、「MSCだからすべて同じ」ではないということです。もとになる組織や培養条件が異なれば、培養液中の分泌物の構成も変わり得ます。

2.植物由来

「植物幹細胞化粧品」と呼ばれる製品では、植物の分裂組織や培養細胞を利用して得られる植物細胞培養エキスなどが化粧品原料として使われています。

リンゴ、ブドウ、エーデルワイスなど、さまざまな植物由来の培養細胞原料が研究・利用されています。

ここで重要なのは、植物の幹細胞とヒトの幹細胞は同じものではないということです。

植物とヒトでは細胞や組織の仕組みが異なるため、「植物の幹細胞が人の幹細胞の代わりになる」という意味ではありません。

3.動物由来

動物由来では、ヒト以外の動物の細胞培養技術を利用した原料があります。

どの動物種・細胞を利用するか、培養後に何を原料として利用するかによって内容は異なります。

ovacoでは、この動物由来の細胞培養技術を利用した原料として、鶏卵由来の「EGG B.P Cell」を採用しています。

EGG B.P Cellの多能性細胞、培養技術、開発背景については、255の記事で詳しく解説しています。

鶏卵幹細胞「EGG B.P Cell」とは?特徴・由来と化粧品への応用を見る

ヒト・植物・動物由来は何が違う?

由来 化粧品原料の例 確認したいポイント
ヒト由来 細胞培養上清液、培養順化培養液など どの組織・細胞由来か、培養・製造方法
植物由来 植物細胞培養エキス、カルス培養エキスなど どの植物由来か、どのような培養・抽出原料か
動物由来 動物細胞由来の培養順化培養液など 動物種・細胞種・培養・製造方法

「ヒト・植物・動物」という由来だけでは、製品の良し悪しを判断することはできません。

「ヒト由来だから高機能」「植物由来だから弱い」とは限らない

由来だけで化粧品の価値を単純に比較することはできません。

同じ由来であっても、使用する細胞、培養方法、製造工程、配合量、他の成分との組み合わせなどによって製品設計は異なります。

「何由来か」だけではなく、「何が、どのような原料として、どのような処方に組み込まれているか」を見ることが大切です。

幹細胞化粧品を選ぶときに確認したい5つのポイント

1.成分表示を見る

「ヒト幹細胞」「植物幹細胞」と紹介されていても、実際の化粧品原料名は異なります。

キャッチコピーだけではなく、何が配合されているのかを確認することが第一歩です。

2.何由来の原料なのかを見る

ヒト由来であればどの細胞、植物であればどの植物、動物由来であればどの動物・細胞を利用しているのかを確認します。

3.「培養上清液」なのか「エキス」なのかを見る

ヒト・動物細胞由来の培養上清液と、植物細胞培養エキスでは、原料が作られる仕組みそのものが異なります。

実際に配合されている原料の種類を区別して考えることが重要です。

4.細胞種・培養条件・「信号の中身」を見る

培養上清液は、細胞種、組織由来、培養条件によって中身が異なります。

そのため、「成長因子配合」「○種類の成分を含む」といった表示だけではなく、どのような信号物質が、どのような背景で得られた原料なのかを見ることが重要です。

ovacoでは、どのような信号が、どのくらい、どのようなバランスで含まれているのかという視点を大切にしています。

5.化粧品全体の処方を見る

化粧品は、ひとつの注目成分だけでできているわけではありません。

幹細胞関連原料だけでなく、製品全体の処方を見ることも重要です。

「成長因子」「エクソソーム」という言葉を見るときのポイント

幹細胞培養上清液について調べると、「成長因子」「サイトカイン」「エクソソーム」などの言葉を目にすることがあります。

ただし、培養上清液であれば、必ず同じ種類・同じ量の物質が含まれているわけではありません。

細胞の種類、組織由来、培養条件、回収方法、精製工程などによって内容は変わります。

また、「培養上清液」と「エクソソーム」も同じ意味ではありません。

そのため、言葉や数だけで商品を判断するのではなく、原料の背景と製品全体を見ることが大切です。

幹細胞化粧品と肌のターンオーバー

肌のターンオーバーとは、表皮の基底層で生まれた細胞が分化しながら肌表面へ移動し、最終的に角層から剥がれ落ちていく一連の更新過程です。

ただし、幹細胞関連原料を配合した化粧品を使うことと、肌の幹細胞そのものを直接動かすことは同じ意味ではありません。

ovacoが約28日の周期や細胞同士の「信号」に注目している理由については、こちらの記事で詳しく解説しています。

肌のターンオーバーとは?28日周期の意味・年齢との関係を見る

ovacoが採用する鶏卵由来の「EGG B.P Cell」

ovacoでは、動物由来の細胞培養技術を利用した化粧品原料として、鶏卵由来の「EGG B.P Cell」を採用しています。

EGG B.P Cellは、生きた幹細胞そのものを化粧品へ配合するものではなく、ニワトリ由来の多能性細胞を培養した際に得られる培養順化培養液を利用した原料です。

ovacoがこの原料に注目した背景には、250の記事で解説した「多能性」「細胞間の信号」「培養過程で得られる物質」という研究の流れがあります。

EGG B.P Cellの由来、開発背景、INCI、国際評価については、こちらの記事で詳しく解説しています。

鶏卵幹細胞「EGG B.P Cell」とは?特徴・由来と化粧品への応用を見る

まとめ

  • 「幹細胞化粧品」は、通常、生きた幹細胞そのものを配合しているという意味ではない。
  • ヒト・動物由来では培養上清液・培養順化培養液、植物由来では植物細胞培養エキスなどが利用されている。
  • 同じ培養上清液でも、細胞の由来や培養条件によって分泌物の構成は変わり得る。
  • ヒト・植物・動物という由来だけで、製品の優劣を単純に判断することはできない。
  • ovacoでは、幹細胞関連原料を見るときに「どのような信号が、どのくらい、どのようなバランスで存在しているか」という視点を大切にしている。
  • 「成長因子」「エクソソーム」などの言葉や数だけではなく、原料の背景と化粧品全体の処方を見ることが重要である。

「幹細胞」という言葉だけを見ると、どの商品も同じ技術を使っているように感じるかもしれません。

しかし実際には、何由来なのか、どのような細胞を使い、どのような条件で培養され、そこからどのような「信号」を含む原料が得られているのかによって内容は異なります。

幹細胞化粧品を選ぶときは、「幹細胞配合」という言葉だけではなく、その原料がどのような細胞から生まれ、どのような信号を持つのかまで見ることが、製品をより深く理解するための第一歩です。

参考文献